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福岡地方裁判所 昭和35年(行)7号 判決 1961年12月09日

原告 山本務

被告 田川税務署長

訴訟代理人 中村盛雄 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(双方の申立)

原告訴訟代理人は「被告が昭和三十五年二月十六日付でした原告の昭和三十三年度所得金額を金四十八万三千二百円とする再調査決定のうち金二十八万円をこえる部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。

(請求の原因)

原告は、福岡県田川郡糸田町と同郡金田町の二箇所においてパチンコ営業を営む者であるが、被告に対し昭和三十三年度所得税の所得金額を金二十八万円と確定申告したところ、被告は右所得金額を金六十五万五千円とする旨の更正決定をした。そこで原告は昭和三十五年一月十一日被告に対し再調査の請求をしたところ被告は同年二月十六日付で右所得金額を金四十八万三干二百円とする旨の再調査決定をした。原告はさらに福岡国税局長に対し同年三月一日審査請求をしたところ、同年三月三十一日付で棄却された。

しかし、原告の昭和三十三年度分の所得金額は金二十八万円であるから、被告の再調査決定のうち右金額をこえる部分は違法であるのでその部分の取消を求める。

(被告の答弁)

原告の請求原因事実中、前段は認めるが、後段は争う。

(被告の主張)

一、被告は原告の昭和三十三年度所得税の所得金額を金六十五万五千円と更正決定し、原告に対し昭和三十四年十二月二十八日更正決定をしたところ、原告は昭和三十五年一月十一日付で被告に対し再調査請求をした。

そこで被告は同年一月十五日再調査を実施したが、原告は原始記録等所得計算に必要な帳簿書類を備えていないので、やむなく原告の再調査請求書に添付された原告の計算にかかる「昭和三十三年度営業所得収支表」を参考にして聴取収支計算を行なつたところ、収入金千九百六十五万二千五百十円、景品用出金千四百四十三万円、一般経費二百九十七万八千二百五十円、特別経費百七十六万九百八十二円となり、原告の差引事業所得金額は金四十八万三千二百七十八円となつた。よつて更正処分の一部取消を相当と認め、原告の昭和三十三年度所得税の所得金額を金四十八万三千二百円と再調査決定し、原告に対し昭和三十五年二月十六日付で再調査決定通知をした。

二、原告は昭和三十五年三月一日福岡国税局長に対し審査請求をしたので、福岡国税局協議団本部は同年三月二十一日実地審理に着手したが、原告はその所得計算に必要な帳簿書類を備えつけていないので、推計課税の方式により算定(その法的根拠は所得税法第四十五条第三項である。)すると、福岡国税局の昭和三十三年度分商工庶業等所得標準率中、遊技場の部の「パチンコ」の所得率は十五、二%であるから、原告計算の収入金額千九百四十万円にこれを乗じた金二百九十四万八千八百円から、雇人費百八十三万六千三百七十五円、建物減価償却費二万八千百九十四円、地代家賃二十六万七干円、利子割引料二十九万四千四百八円(原告の申立額三十五万二千六百八円から標準率を適用することにより認容することとなる利息五万八千二百円を控除した残額)を差引いた金五十二万二千百二十三円が原告の所得金額である。よつて原告の所得金額は被告のした再調査決定額四十八万三千二百円を上廻るので、なんら違法はない。したがつて福岡国税局協議団は右再調査決定額を相当と判定し、同国税局長は前記審査請求を棄却し、原告に対し昭和三十五年三月三十一日付で棄却の審査決定通知をした。

三、さらに、原告の営業所に最も近い田川郡内の同業者間のパチンコ台一台当りの所得金額における権衡からみても原告の右再調査決定額はむしろ低すぎるとさえいえるのである。

四、以上の次第で被告のした再調査決定は全部適法である。

証拠<省略>

理由

原告の請求原因事実中、前段の事実は当事者間に争いがない。

被告は原告の昭和三十三年度における所得金額を算出するのに、原告がその所得計算に必要な帳簿書類を備えていないので、聴取収支計算または推計課税の方式による外はないと主張するところ、証人衛藤慎吾、同市倉数雄(第一、二回)の各証言によれば、原告方には賃金支払に関する帳簿があつただけで他に所得計算に必要な帳簿書類はなかつたことが認められ、これに反する原告本人尋問の結果は措信しがたく、他に右認定を動かすに足る証拠はないので、本件において原告の所得を算出するには被告主張の方法によらざるを得ないものと認められる。

成立に争いのない甲第一、四号証、証人市倉数雄の証言(第二回)により成立を認める乙第六号証の三、および右証言によれば、被告は原告の再調査請求書に添付された原告の計算にかかる「昭和三十三年度営業所得収支表」を参考として聴取収支計算をした結果、収入金千九百六十五万二千五百十円、景品用出金干四百四十三万円、一般経費二百九十七万八千二戸五十円(特別経費百七十六万九百八十二円で、原告の差引事業所得額は金四十八万三千二百七十八円となり、よつて原告の昭和三十三年度所得税の所得金額を金四十八万三千二百円と再調査決定をしたことを認めることができる。

そこで、右金額の当否について検討するのに、

1  成立に争いのない甲第三、四号証および証人市倉数雄の証言

(第一、二回)によれば、原告の昭和三十三年度における収入金は千九百四十万円を下らないことを認めることができる。

2  弁論の全趣旨により成立を認めることのできる乙第一号証の一、二、および証人松本芳朗、同衛藤慎吾の証言によれば昭和三十三年度における福岡国税局管内のパチンコ営業による所得率は十一、二%ないし十八、二%で平均十五、二%であることを認めることができる。そして右各証言によれば、原告の営業は福岡国税局管内の通常のパチンコ営業者同程度の経営状態であつたと推認することができ、したがつて右十五、二%の所得率により原告の所得を算定しても原告の所得を過大に認定するおそれはないというべきである。そこで前記収入金に右所得率を乗じて算出すると、特別経費控除前の原告の所得は金二百九十四万八千八百円を下らないと認めるのが相当である。

3  成立に争いのない甲第三号証、証人衛藤慎吾、同市倉数雄(第二回)の各証言および弁論の全趣旨によると、昭和三十三年度の原告の営業の特別経費は雇人費百八十三万六千三百七十五円、建物減価償却費二万八千八百九十四円、地代家賃二十六万七千円、利子割引料(ただし標準率適用の場合の超過利息)金二十九万四千四百八円、合計金二百四十二万六千六百七十七円と認められる。

4  そうすると、原告の昭和三十三年度の所得金額は前記金二百九十四万八千八百円から右特別経費二百四十二万六千六百七十七円を控除した金五十二万二千百二十三円を下らないと認めるのが相当である。

右認定に反する原告本人尋問の結果は措信できないし、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

したがつて、右所得金額の範囲内で原告の昭和三十三年度の所得金額を金四十八万三千二百円としてなされた被告の再調査決定は違法でないといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小西信三 唐松寛 川崎貞夫)

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